1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:40:09.58 ID:Zln0Zp+O0.net
安部公房『壁』

丹羽文雄「寓意とか諷刺をことさら期待せずに、最後まで面白くよんだ。

丹羽文雄「寓意とか諷刺をことさら期待せずに、最後まで面白くよんだ。
一つの才能。こういう風にも書けるものだと感心した。
途中気になるところがあった。
途中気になるところがあった。
二十六歳というのに、堂々と腰を据えた文章はみごとである。」
佐藤春夫「(引用者注:「春の草」にくらべて)
佐藤春夫「(引用者注:「春の草」にくらべて)
鴎外訳のロシヤ小説(引用者中略)の模倣ではあろうとも
その意図と文体の新鮮なだけでもよかろうというと、
別に瀧井君なども同意見であったが
別に瀧井君なども同意見であったが
安部公房は既に別の賞金(戦後文学賞)を貰った人ではあり、
彼一人では後塵を拝する観があって面白くないと云う説もあって、
石川・安部と二人を組み合した授賞になった。」
瀧井孝作「寓話諷刺の作品にふさわしい文体がちゃんと出来ている。
瀧井孝作「寓話諷刺の作品にふさわしい文体がちゃんと出来ている。
文体文章がちゃんと確かりしているから、どんな事が書いてあっても、
読ませるので、筆に力があるのです。自分のスタイルを持っている。
これはよい作家だと思いました。
これはよい作家だと思いました。
私は、今回はこの二人(引用者注:石川利光と安部公房)
を推したいと考えました。」
3: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:40:51.80 ID:Zln0Zp+O0.net
岸田國士「力作であり、かつ、有望な才能の持主であることはわかる。
注目すべき野心作にはちがいないが、
注目すべき野心作にはちがいないが、
もうちょっと彫琢されてあることが望ましいものであった。
序に言えば、この作家の言葉遣いには、
腑におちぬ日本語の誤りが眼についた。」
舟橋聖一「新しい観念的な文章に特徴があり、実証精神の否定を構図とする
舟橋聖一「新しい観念的な文章に特徴があり、実証精神の否定を構図とする
抽象主義の芸術作品である。よく、力を統一して、書きこなしている。
難をいえば、二〇六枚は長すぎるのではないかと思う。
難をいえば、二〇六枚は長すぎるのではないかと思う。
途中で飽きてくるところがあり、散漫になる。
石川一人(引用者注:への授賞)では物足りないところを補うような塩梅で、
賛成投票をかち得たといえる。」
川端康成「私は推薦したかった。
川端康成「私は推薦したかった。
堀田氏や安部氏のような作家が出て「歯車」や「壁」のような作品
の現われることに、私は今日の必然を感じ、
その意味での興味を持つからである。
冗漫と思えた。また部分によって鋭敏でない。
冗漫と思えた。また部分によって鋭敏でない。
しかし、(引用者中略)作者の目的も作品の傾向も明白であって、
このような道に出るのは新作家のそれぞれの方向であろう。」
宇野浩二「不可解な小説である。
宇野浩二「不可解な小説である。
しかし、退屈をしのび、辛抱して、しまいまで、読めば、
作者が書こうとしたことは、少し(少しであるが)わかる。
この小説を、かりに、(かりにである、)
この小説を、かりに、(かりにである、)
いわゆる『二重人格』をとりあつかったものとすれば、いうまでもなく、
シャミッソオの『影をなくした男』の足下にも、はるかに、およばない。
写実的なところなどは、ほとんど、まったく、ない。
一と口にいうと、『壁』は、物ありげに見えて、何にもない、
一と口にいうと、『壁』は、物ありげに見えて、何にもない、
バカげたところさえある小説である。」
坂口安吾「今回当選の二作は私は感心しませんでした。
坂口安吾「今回当選の二作は私は感心しませんでした。
二人の作家の代表的な作品でもないように思う。」
4: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:42:16.27 ID:Zln0Zp+O0.net
遠藤周作『白い人』

石川達三「第一候補(引用者中略)という心づもりで、私は委員会に出て行った。

石川達三「第一候補(引用者中略)という心づもりで、私は委員会に出て行った。
全く未知の人だが私はこの作品を信用してもいいと思う。
戦後のフランス文学などに類型がありはしないかという疑問も提出されたが、
戦後のフランス文学などに類型がありはしないかという疑問も提出されたが、
古臭い類型ならともかく、新しい類型ならば外国にその例があっても無くとも、
委員会はあまり気にしなくともいいと私は思った。
直木賞候補だという説もあったが、私はそうは思わない。」
井上靖「銓衡で最後まで残ったが、当然なことと思われた。
直木賞候補だという説もあったが、私はそうは思わない。」
井上靖「銓衡で最後まで残ったが、当然なことと思われた。
筆も確りして最後まで読ませる。
私はこの作品が取り扱っているカトリックの信仰の問題が
私はこの作品が取り扱っているカトリックの信仰の問題が
自分に身近くないために、
この作品の評価に多少戸惑いを感じたが、併し、
今期の芥和賞に該当作品ありとすれば、
この作品であることは間違いないところだった。」
佐藤春夫「最後まで残った。遠藤の力作は頼もしい。
佐藤春夫「最後まで残った。遠藤の力作は頼もしい。
遠藤とは僅に一面識だが、他の候補者がすべて見ず知らずのなかで
遠藤との面識がかえって遠藤の支持を妨げるような気分であったが、
候補作をもう一度全部思い返してやはり遠藤を採るのが至当と思えた。
新作家の未熟も目につかぬではないが、
新作家の未熟も目につかぬではないが、
それを償うて余りある熱意を見て
このズブの新人の力一杯幾分手にあまった作品を
今回の芥川賞に最も適当なものとして買う。
――多少、危険株と思わないでもないが。」
6: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:42:54.49 ID:Zln0Zp+O0.net
丹羽文雄「全くダークホースであった。
私と川端さんだけが、最後まで多少不安を感じた。
が、反対を唱えるような作品ではなかった。」
宇野浩二「特異な題材を、よく工夫して、工合よく、書いてある、
宇野浩二「特異な題材を、よく工夫して、工合よく、書いてある、
という点だけでも、問題になるところはある、が、唯それだけのところもある。
結局、芥川賞の係りの人が、
結局、芥川賞の係りの人が、
(一時は「今回こそ該当作なし」と大方きまりかかったのに、)
粘りに粘ったために、この『白い人』が賞ときまってしまったが、
私は、(委員会の時までにこの小説だけ読んでいなかったので、)
私は、(委員会の時までにこの小説だけ読んでいなかったので、)
委員会の日の翌日にこの作品を二度も読んでみたけれど、その結果、
この小説は芥川賞に該当しない、と、ここで、言明する。」
瀧井孝作「わるくはないが、アカデミックの形式主義か、飜訳小説に似て、
瀧井孝作「わるくはないが、アカデミックの形式主義か、飜訳小説に似て、
瓶詰をたべるような味だと思った。
「白い人」遠藤周作氏が当選したことは、
「白い人」遠藤周作氏が当選したことは、
西洋小説のようなものも日本人が描けるのだという意味で面白いと思った。」
舟橋聖一「一時は(引用者注:該当作)ナシにきまりかけたが、
舟橋聖一「一時は(引用者注:該当作)ナシにきまりかけたが、
司会者の運びのうまさ(これは名人芸に値した)につりこまれて、
やはり授賞作となった。
僕が彼に、一票を投じけれなかったのは、
僕が彼に、一票を投じけれなかったのは、
果して小説一本で行く人かどうかを疑ったからであった。」
川端康成「推すのには、多少の逡巡と疑問を感じたと言うよりも、
川端康成「推すのには、多少の逡巡と疑問を感じたと言うよりも、
私は自信に欠けていたと言った方がいいかもしれない。
外国を舞台に外国人を書いているからである。
これは考えられ作られた作品であって、
これは考えられ作られた作品であって、
日本では勿論材料も主題も特異であるけれども、
同時に典型的でもある。批評的な図式の感じを十分抜け切らない。
しかしこれも差支えないと思えば差支えはない。
しかしこれも差支えないと思えば差支えはない。
つまり、この力ある作家を拒否する理由はなさそうである。」
7: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:44:35.80 ID:Zln0Zp+O0.net
石原慎太郎『太陽の季節』

石川達三「推すならばこれだという気がした。欠点は沢山ある。

石川達三「推すならばこれだという気がした。欠点は沢山ある。
気負ったところ、稚さの剥き出しになったところなど、
非難を受けなくてはなるまい。
倫理性について「美的節度」について、問題は残っている。
倫理性について「美的節度」について、問題は残っている。
しかし如何にも新人らしい新人である。
危険を感じながら、しかし私は推薦していいと思った。
芥川賞は完成した作品に贈られるものではなくて、
芥川賞は完成した作品に贈られるものではなくて、
すぐれた素質をもつ新人に贈られるものだと私は解釈している。」
井上靖「その力倆と新鮮なみずみずしさに於て抜群だと思った。
井上靖「その力倆と新鮮なみずみずしさに於て抜群だと思った。
問題になるものを沢山含みながら、
やはりその達者さと新鮮さには眼を瞑ることはできないといった作品であった。
戦後の若い男女の生態を描いた風俗小説ではあるが、
戦後の若い男女の生態を描いた風俗小説ではあるが、
ともかく一人の――こんな青年が現代沢山いるに違いない――
青年を理窟なしに無造作に投げ出してみせた作品は他にないであろう。」
中村光夫「未成品といえば一番ひどい未成品ですが、
中村光夫「未成品といえば一番ひどい未成品ですが、
未完成がそのまま未知の生命力の激しさを感じさせる点で
異彩を放っています。常識から云えば、この文脈もところどころ怪しい。
「丁度」を「調度」と書くような学生に芥川賞をあたえることは、
「丁度」を「調度」と書くような学生に芥川賞をあたえることは、
少なくも考えものでしょう。
石原氏への授賞に賛成しながら、僕はなにかとりかえしのつかぬ
石原氏への授賞に賛成しながら、僕はなにかとりかえしのつかぬ
むごいことをしてしまったような、うしろめたさを一瞬感じました。
しかしこういうむごさをそそるものがたしかにこの小説にはあります。
おそらくそれが石原氏の才能でしょう。」
丹羽文雄「若さと新しさがあるというので、授賞となったが、
丹羽文雄「若さと新しさがあるというので、授賞となったが、
この若さと新しさに安心して、手放しで持ちあげるわけにはいかなかった。
才能は十分にあるが、同時に欠点もとり上げなければ、
才能は十分にあるが、同時に欠点もとり上げなければ、
無責任な気がする。結局推す気にはなれなかった。
私には何となくこの作者の手の内が判るような気がする。」
9: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:46:09.58 ID:Zln0Zp+O0.net
佐藤春夫「反倫理的なのは必ずも排撃はしないが、
こういう風俗小説一般を文芸として最も低級なものと見ている上、
この作者の鋭敏げな時代感覚もジャナリストや興行者の域を出ず、
決して文学者のものではないと思ったし、
決して文学者のものではないと思ったし、
またこの作品から作者の美的節度の欠如を見て最も嫌悪を禁じ得なかった。
僕はまたしても小谷剛を世に送るのかとその経過を傍観しながらも、
僕はまたしても小谷剛を世に送るのかとその経過を傍観しながらも、
これに感心したとあっては恥しいから僕は選者でも
この当選には連帯責任は負わないよと念を押し宣言して置いた。」
瀧井孝作「小説の構成組立に、たくみすぎ、ひねりすぎの所もあるが、
瀧井孝作「小説の構成組立に、たくみすぎ、ひねりすぎの所もあるが、
若々しい情熱には、惹かれるものがあった。
これはしかし読後、“わるふざけ”というような、感じのわるいものがあったが、
これはしかし読後、“わるふざけ”というような、感じのわるいものがあったが、
二月号の「文學界」の「奪われぬもの」というスポーツ小説は、
少し筆は弱いけれど、まともに描いた小説で、これならまあよかろうと思った。
この作家は未だ若くこれからだが、只、器用と才気にまかせずに、
この作家は未だ若くこれからだが、只、器用と才気にまかせずに、
尚勉強してもらいたい、と云いたい。」
宇野浩二「読みつづけてゆくうちに、私の気もちは、しだいに、索然として来た、
宇野浩二「読みつづけてゆくうちに、私の気もちは、しだいに、索然として来た、
味気なくなって来た。
仮りに新奇な作品としても、しいて意地わるく云えば、
仮りに新奇な作品としても、しいて意地わるく云えば、
一種の下らぬ通俗小説であり、
又、作者が、あたかも時代に(あるいはジャナリズム)に迎合するように、
(引用者中略)『拳闘』を取り入れたり、
(引用者中略)『拳闘』を取り入れたり、
ほしいままな『性』の遊戯を出来るだけ淫猥に露骨に、(引用者中略)
書きあらわしたり、しているからである、」
川端康成「私は「太陽の季節」を推す選者に追随したし、
川端康成「私は「太陽の季節」を推す選者に追随したし、
このほかに推したい作品もなかった。
第一に私は石原氏のような思い切り若い才能を推賞することが大好きである。
極論すれば若気のでたらめとも言えるかもしれない。
極論すれば若気のでたらめとも言えるかもしれない。
このほかにもいろいろなんでも出来るというような若さだ。
なんでも勝手にすればいいが、なにかは出来る人にはちがいないだろう。」
舟橋聖一「今回はこの一作しかないと思って、委員会に出席した。
舟橋聖一「今回はこの一作しかないと思って、委員会に出席した。
この作品が私をとらえたのは、
達者だとか手法が映画的だとかいうことではなくて、
一番純粋な「快楽」と、素直にまっ正面から取組んでいる点だった。
彼の描く「快楽」は、戦後の「無頼」とは、異質のものだ。
佐藤春夫氏の指摘したような、押しつけがましい、
佐藤春夫氏の指摘したような、押しつけがましい、
これでもか、これでもかの、ハッタリや嫌味があっても、
非常に明るくはっきりしているこの小説の目的が、
それらの欠陥を補ってあまりあることが、授賞の理由である。」
10: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:49:11.45 ID:Zln0Zp+O0.net
大江健三郎『飼育』

石川達三「晦渋な表現が少くない。わざと解りにくく書いているような気もする。

石川達三「晦渋な表現が少くない。わざと解りにくく書いているような気もする。
しかし新しい才能として推薦するのが妥当であろう。
私は、「死者の奢り」よりもこの方(引用者注:「飼育」)を採る。
私は、「死者の奢り」よりもこの方(引用者注:「飼育」)を採る。
大江君はこの半年のあいだに流行作家のようになっているのだから、
授賞すればそれがその例になって、新人賞の意味がぼやけてくる。
授賞しない方がよろしい。……こういう解釈で、私は反対した。
授賞しない方がよろしい。……こういう解釈で、私は反対した。
大江君は一見流行作家のようではあるが、現に大学生でもあり、
作品経歴も極めて薄い。
作品も新鮮である。私は改めて今回の授賞に賛成することにした。」
川端康成「今回の大江氏授賞には率先して賛成である。
大江氏の「飼育」を佐藤氏
作品も新鮮である。私は改めて今回の授賞に賛成することにした。」
川端康成「今回の大江氏授賞には率先して賛成である。
大江氏の「飼育」を佐藤氏
(大江氏は授賞資格を超えるとして読まれなかった。)
以外の全委員が推賞し、
大江氏の他の候補を支持する委員が一人もないのに、
大江氏を落して、該当作なしとするには、
理由がよほど明確強固でなければなるまい。
世評は大江氏の才能に眩惑され気味でも、確認を与えているかどうか。
世評は大江氏の才能に眩惑され気味でも、確認を与えているかどうか。
この二十三歳の学生作家がもう芥川賞に及ばないとは、
私には考えられなかった。」
中村光夫「「飼育」が予選通過作品のなかで抜群の出来であるのは、
中村光夫「「飼育」が予選通過作品のなかで抜群の出来であるのは、
ほとんど誰も異存のなかった。
僕は芥川賞はすでに名をなした新人顕彰より、
僕は芥川賞はすでに名をなした新人顕彰より、
むしろ無名の新人発見を使命とすべきだという考えから、
氏の受賞には反対でした。
しかし授賞ときまれば、それもまたよいという気がするのは、
しかし授賞ときまれば、それもまたよいという気がするのは、
大江氏の才能の性格によるのでしょうか。」
丹羽文雄「「飼育」には文句はない。
丹羽文雄「「飼育」には文句はない。
私は作者のジャーナリズムにおける位置を考慮に入れず、
いちばんよい作品というので最初から推した。
しかし、作品の構成では「鳩」の方が秀れている。
しかし、作品の構成では「鳩」の方が秀れている。
「鳩」をよんでいると、この作者には何か病的なところがあるのではないか
と心配になったが、それも若い作者の気質ではないかと考え直した。」
瀧井孝作「(引用者注:候補作中)一番佳い方だと思った。
瀧井孝作「(引用者注:候補作中)一番佳い方だと思った。
描写には、若い情熱のムンムンしたものがあった。
大江健三郎氏は、本も何冊か出て、もう有名な流行作家のようで、
大江健三郎氏は、本も何冊か出て、もう有名な流行作家のようで、
芥川賞の必要もないわけだが。
今回は賞無しというのも少し淋しいかと思って、
今回は賞無しというのも少し淋しいかと思って、
この心持から当選の方に僕は敢て賛成した。」
11: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:50:29.28 ID:Zln0Zp+O0.net
佐藤春夫「大江健三郎が今更、芥川賞候補予選に入っているのは
新人の短篇に授与するタテマエから見て妥当であるか否かを
先ず検討してもらった。
実のところ僕自身は妥当ならずとしてその作品は読んで来ていなかった。
席上にいた振興会の佐佐木理事長が賞の制定の当時と
席上にいた振興会の佐佐木理事長が賞の制定の当時と
今日とはジャナリズムの情勢に急激な変化もあり
半年間ぐらいで新人が中堅作家として時めくような異例の現象も起るが
名声は安定したものではなく、
この程度はまだ新人と認めようという意見であった。
芥川賞は今日以後新人の登竜門ではなく、
芥川賞は今日以後新人の登竜門ではなく、
新進の地位を安定させる底荷のような賞と合点した。」
井伏鱒二「才能の感じられる新鮮な作品という意味で大江健三郎氏の二作を
井伏鱒二「才能の感じられる新鮮な作品という意味で大江健三郎氏の二作を
推しました。
発足するにおいて托する主人公の優秀な五感をはっきり六根に擬装させ、
発足するにおいて托する主人公の優秀な五感をはっきり六根に擬装させ、
これでもって陳腐へ左様ならしながら
まともな作者の影を写していると思いました。
自己満足癖を否定している点にも新鮮味を感じました。
自己満足癖を否定している点にも新鮮味を感じました。
こんなのは流行だと感じるのはこちらが古いんだと知れと秘かに頷きました。」
舟橋聖一「前回に落ちた大江の「死者の奢り」に対する反対委員の鑑賞には、
舟橋聖一「前回に落ちた大江の「死者の奢り」に対する反対委員の鑑賞には、
僕は依然として、疑問をもつ。
委員のうちからは、半年の間に、大江が偉くなったから、
委員のうちからは、半年の間に、大江が偉くなったから、
今さら授賞の必要はないと強く主張する人もあったが、(引用者中略)
この位の仕事をすれば、多少は社会的なあつかいが上がるのは、
当り前だろう。
「文学を通して、政治に関与する」という彼の考え方も、(引用者中略)
「文学を通して、政治に関与する」という彼の考え方も、(引用者中略)
具体的には、ピッケル一つ提示されてはいないのだが、
体当りにぶつかっていく彼の真面目さと熱中を、
僕は衒気とも匠気とも見ない。
僕が今日の会の最初に、大江に投票するのを躊躇したのは、
僕が今日の会の最初に、大江に投票するのを躊躇したのは、
「飼育」より、「死者の奢り」のほうに感銘が強かったから」
永井龍男「「飼育」に感心した。「鳩」も、同じ作者の個性が一層強く出ていた。
永井龍男「「飼育」に感心した。「鳩」も、同じ作者の個性が一層強く出ていた。
授賞するには「飼育」より他にないと思った。
世評を恐れて授賞をためらうのは、
却って銓衡の純粋さを失う結果にならないとも限らない。
縦横に網を張り根を張った最近のジャーナリズムでは、
縦横に網を張り根を張った最近のジャーナリズムでは、
芥川賞の幅もおのずとこの辺までひろがってくるのではないか。
「大江健三郎は未完成な新人だ」という意味の、
一委員の発言が私にはぴたりと来た。」
井上靖「候補作品の中では(引用者中略)抜群であり、
井上靖「候補作品の中では(引用者中略)抜群であり、
作家としての資質才能も際立っていた。
私は大江氏が処女作を発表してから幾許も経っておらず、
私は大江氏が処女作を発表してから幾許も経っておらず、
まだ学生ではあるし、有名とは言え、
新人の初々しさをいっぱい身につけているので、
芥川賞授賞の対象になり得ると考えた。
「飼育」は(引用者中略)発想は明確であるし、
「飼育」は(引用者中略)発想は明確であるし、
イメージを書いて行く力も非凡で、作全体に、
若々しいエネルギーが漲っていて、佳作の名に恥じないと思う。
「鳩」の方は作者の感覚が少しずれて、「飼育」よりは大分落ちる。」
宇野浩二「「今さら芥川賞には、……」と反対した。
「鳩」の方は作者の感覚が少しずれて、「飼育」よりは大分落ちる。」
宇野浩二「「今さら芥川賞には、……」と反対した。
十人の委員のうち、(欠席の井伏を入れると、十一人の委員のうち、)
多数決で、(七対四、)
『飼育』を今度の芥川賞に推すことになったのである、
但し、私はあくまで「反対」である。
私も『飼育』はみとめるが、この作者が、
私も『飼育』はみとめるが、この作者が、
今までの幾つかの作品に見えるような、気どりと、
無理に見える病的なところがなくなれば、よいのではないか、
と思うけれど、
それらがなくなれば、この作者の小説の特徴がなくなるかもしれない。」
12: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:53:03.30 ID:Zln0Zp+O0.net
庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』

三島由紀夫「二作(引用者注:「赤頭巾ちゃん気をつけて」と「深い河」)

三島由紀夫「二作(引用者注:「赤頭巾ちゃん気をつけて」と「深い河」)
に賞が与えられたことは、私にとっては勿怪の幸であった。
私はこの二作の間で非常に迷っていたからである。
私はこの二作の間で非常に迷っていたからである。
才気あふれる作品だと思う。
饒舌体で書きつらねながら、女医の乳房を見るところや、
饒舌体で書きつらねながら、女医の乳房を見るところや、
教育ママに路上でつかまるところなどは、甚だ巧い。」
丹羽文雄「面白かった。面白い小説のジャンルでは群を抜いていた。
丹羽文雄「面白かった。面白い小説のジャンルでは群を抜いていた。
これはこれでよろしい。」
石川達三「種々の疑問があって、私は推薦に躊躇した。
甚だ饒舌的で、あり余る才気を濫用したようなところがあり、
石川達三「種々の疑問があって、私は推薦に躊躇した。
甚だ饒舌的で、あり余る才気を濫用したようなところがあり、
また日常的な通俗さを無二無三に叩きこんで、
ユーモア大衆小説のようでもある。」
瀧井孝作「現今の学校卒業生の生活手記で、
瀧井孝作「現今の学校卒業生の生活手記で、
十八歳の少年にしては余りにおしゃべりだが、
この饒舌に何か魅惑される、たぶらかされる面白味があった。
構成も面白く、繊細な美しさがあった。筋のない小説らしい。」
舟橋聖一「二作授賞に私も同意した。書き出しから、
構成も面白く、繊細な美しさがあった。筋のない小説らしい。」
舟橋聖一「二作授賞に私も同意した。書き出しから、
ある病院の女医さんに生爪を剥がした指の治療をしてもらうあたりまでは
快調なタッチで、わかりやすく読ませる。
高校生らしい純情と不純が巧みにないまぜられている。」
高校生らしい純情と不純が巧みにないまぜられている。」
13: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:53:39.30 ID:Zln0Zp+O0.net
大岡昇平「現代の典型の一つを、「猛烈」「最高」など流行語で書き表しているのに
興味を惹かれました。
この作品が「新しさ」という点で、芥川賞にふさわしいのではないか、
この作品が「新しさ」という点で、芥川賞にふさわしいのではないか、
と推薦しておきました」
井上靖「二篇(引用者注:「赤頭巾ちゃん気をつけて」と「深い河」)
井上靖「二篇(引用者注:「赤頭巾ちゃん気をつけて」と「深い河」)
いずれが授賞作になってもいいという気持で銓衡の席に臨んだ。
最後に私自身は多少の不安はあったが、「赤頭巾ちゃん」にしぼった。
不安というのは、作品全体から感じられる新鮮な感覚の中に、
不安というのは、作品全体から感じられる新鮮な感覚の中に、
時折、汚れというか分別臭いというか、
そうしたものが顔を出しているからである。
庄司氏が未知数の面白さを持っているのに対して、
庄司氏が未知数の面白さを持っているのに対して、
田久保氏はもうできあがっている作家である。」
中村光夫「才筆には違いありませんが、
中村光夫「才筆には違いありませんが、
僕は最後まで興味を覚えることができませんでした。
現代をこのような形で表現しようとする企図はたしかに独創的であっても、
現代をこのような形で表現しようとする企図はたしかに独創的であっても、
それはこのような饒舌を読者におしつける弁明にはならないでしょう。」
川端康成「おもしろいところはあるが、
川端康成「おもしろいところはあるが、
むだな、つまらぬおしゃべりがくどくどと書いてあって、私は読みあぐねた。」
永井龍男「読み進むうち、この小説は二人以上の筆者による合作ではないか
永井龍男「読み進むうち、この小説は二人以上の筆者による合作ではないか
と推理したが、結末の「あとがき」に到ると、
そういう読者を予想したかの感想も添えてあった。
「薫」というあやつり人形は巧みに踊るが、
人形使いの姿が露出する個所もあるのである。
まことに気がきき才筆なことは確かだが、
まことに気がきき才筆なことは確かだが、
アイスクリームのように溶けて了う部分の多いことも、
この作品の特徴であろう。」
石川淳「車はうごかなくても、車輪がくるくるまわっているので、
石川淳「車はうごかなくても、車輪がくるくるまわっているので、
車がうごいているように見える、
そこに「赤頭巾ちゃん気をつけて」のスタイルの面目がある、
それがおもしろくないこともない。
そういっても、スタイル一手で押しきってカンペキと申すまでには至らない、
そういっても、スタイル一手で押しきってカンペキと申すまでには至らない、
それほどお立派なものではない、やりそこないの部分をもふくめて、
このスタイルは一つの価値を作っている。
これを価値といってはあぶなっかしいというか。
これを価値といってはあぶなっかしいというか。
しかし、(引用者中略)わたしはあえてこのスタイルを推す。」
14: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:55:48.77 ID:Zln0Zp+O0.net
古井由吉『杳子』

瀧井孝作「「杳子」は(引用者中略)何か混沌とした、暗い明晰でない、灰色の感じが、

瀧井孝作「「杳子」は(引用者中略)何か混沌とした、暗い明晰でない、灰色の感じが、
この小説の場合には、この灰色の混沌も、小説の色どりと持味になって、
密度の濃い、面白いヤヤコシさで、筆の妙味に陶然とさせられた。
次に同じ作者の「妻隠」を読んで、(引用者中略)
次に同じ作者の「妻隠」を読んで、(引用者中略)
明るい明晰で、別人の筆かと思う位に変って居た。
これも佳作だが水彩画のような味で、
「杳子」は油彩のようなねっとりした味の小説。
これだけ打込んで描いたのは、大いに褒めてもよいと思った。」
丹羽文雄「「杳子」はこの作者の持味が完璧にあらわれている。
丹羽文雄「「杳子」はこの作者の持味が完璧にあらわれている。
そのあとで「妻隠」を読んだが、
前のあざやかな印象のためにさらに感心した。
このひとの才能のゆたかさに感心した。
「杳子」の世界にとどまるとなると、多少の不安を感じないでもないが、
「杳子」の世界にとどまるとなると、多少の不安を感じないでもないが、
「妻隠」の方向にのびていくとなれば、
この作者には洋々たる将来が約束されるような気がする。」
石川達三「大部分が古井君を支持していた。
石川達三「大部分が古井君を支持していた。
古井君の作品に関しては私は異論がある。」
舟橋聖一「作者の進境がよく見えた。
舟橋聖一「作者の進境がよく見えた。
「妻隠」と「杳子」の二作のどちらを受賞させるかについて、
論議がわかれ、一票の差で「杳子」に決った。
私は「杳子」のほうに票を入れた。
私は「杳子」のほうに票を入れた。
これを古井の鉱脈とまでは言わないが、私はこの作品に陶酔したのだ。
同じことをこんなに重複させて書きながら、退屈させないのは、
同じことをこんなに重複させて書きながら、退屈させないのは、
至難の技であると共に個性的である。そこをよく乗り切っていると思った。」
15: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:56:32.34 ID:Zln0Zp+O0.net
中村光夫「「杳子」よりも、「妻隠」の方がすぐれていると思い、
これを当選作として推すつもりでした。
「杳子」は(引用者中略)主人公の独り合点な抒情が、
「杳子」は(引用者中略)主人公の独り合点な抒情が、
そのまま作者によって肯定されているようなところが、
終りになるほど露骨になります。
「妻隠」は、(引用者中略)若夫婦の生活の不安、空しさ、甘さなどが、
「妻隠」は、(引用者中略)若夫婦の生活の不安、空しさ、甘さなどが、
彼らの肉体の曖昧のように、読者の心にやわらかく浸み透ってきます。」
大岡昇平「二作(引用者注:「杳子」「妻隠」)では「杳子」の方が、
大岡昇平「二作(引用者注:「杳子」「妻隠」)では「杳子」の方が、
よく書きこまれている。
従来この作者の作品は、一本調子にすぎるのが欠点だが、
従来この作者の作品は、一本調子にすぎるのが欠点だが、
「妻隠」においては、視点の転換、面の交錯が、実にうまく行われている。
私はこの方を推したが、むろん「杳子」も授賞の価値は十分である。
私はこの方を推したが、むろん「杳子」も授賞の価値は十分である。
実感派と目されていた委員が、こぞってこの作品(引用者注:「杳子」)
を推したのは、興味深かった。」
川端康成「古井由吉氏の二作のほかに、取りあげる作品が見られなかった。
文藝春秋社内予選で意見が全く二分したので
川端康成「古井由吉氏の二作のほかに、取りあげる作品が見られなかった。
文藝春秋社内予選で意見が全く二分したので
(引用者注:古井氏の候補だけ)二作をあげたというが、
一編とできなかったのは不明断、不見識であろう。
私は選後に「妻隠」を読んでみたが、
私は選後に「妻隠」を読んでみたが、
印象は「杳子」にくらべて微弱であった。
古井氏の以前の候補作(引用者中略)でも、
私は作者の才質に興味と好意を感じていたので、
「杳子」での当選をよろこぶ。」
永井龍男「「杳子」にぎっしり塗り込められた異常心理は、
永井龍男「「杳子」にぎっしり塗り込められた異常心理は、
データとしては格別珍しいものではあるまい。
閉じられた世界の開花は、この作の上では私には見られなかった。
閉じられた世界の開花は、この作の上では私には見られなかった。
そこへ行くと「妻隠」の手練は大したもので、
却って老成というような印象をうけた。」
石川淳「「杳子」を推す。
石川淳「「杳子」を推す。
もう一つの「妻隠」のほうは、力がおもうように行きわたらないけはいがする。
「杳子」は今まですすんで来た道の里程を示す一本の杭のようである。
「杳子」は今まですすんで来た道の里程を示す一本の杭のようである。
ここから道のけしきがすこしかわって、「妻隠」のほうに出たのだろうか。
古井君が硬質なことばをもって組みあげるスタイルは、
古井君が硬質なことばをもって組みあげるスタイルは、
なにかを表現するのではなくて、
なにかを突きとめようとするもののごとくである。」
井上靖「「杳子」と「妻隠」の二作が光っていましたので、
井上靖「「杳子」と「妻隠」の二作が光っていましたので、
最近では珍しいらくな銓衡になりました。
「杳子」「妻隠」それぞれに特色ある作品で、
「杳子」「妻隠」それぞれに特色ある作品で、
どちらが選ばれても異存はありませんが、
私の場合は「妻隠」の方を推しました。
久しぶりに、作者の計算が行き届いている短篇らしい短篇
にぶつかった思いでした。」
16: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:57:10.99 ID:7K91PP1h0.net
直木賞の浅田次郎とかボロクソに言うよな
17: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:58:02.04 ID:Zln0Zp+O0.net
中上健次『岬』

吉行淳之介「人間関係が複雑をきわめているので、二度読んだ。

吉行淳之介「人間関係が複雑をきわめているので、二度読んだ。
読者はふつう親切ではないので、
途中で放棄される可能性のある書き方である。
終りの数頁をとくに評価する。
終りの数頁をとくに評価する。
欠点も眼についたが、未知数の魅力とエネルギーに満ちていて、
芥川賞の作品にふさわしい。」
丹羽文雄「かねてから私は、この作者に属目していた。
丹羽文雄「かねてから私は、この作者に属目していた。
今度の作品にも、欠点はある。
が、それらの非難を押えつけるほどこの作品からうける印象は強烈である。
母親がよく描かれていた。
母親がよく描かれていた。
この母親によって賞をうけたようなものである。
作者は現実に体当りをして書いている。
短いセンテンスは、一種さわやかな感じをあたえる。」
井上靖「新進気鋭な作家としてのエネルギーが感じられる。
井上靖「新進気鋭な作家としてのエネルギーが感じられる。
ただこの作品に於ては、人間関係をのみこむのに、多少難渋した。」
18: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:58:36.29 ID:Zln0Zp+O0.net
永井龍男「登場人物の親戚、姻戚関係が錯雑していて、
それを呑み込むまで骨が折れた。
この作者は、一群れの人間を浮出させるのに、すぐれた筆力を持っている。
前の候補作「浄徳寺ツアー」でそう思ったことを、今度もあらためて感じた。」
瀧井孝作「人物がゴチャゴチャして、描写も何もない、わけのわからんものと私は見た。
前の候補作「浄徳寺ツアー」でそう思ったことを、今度もあらためて感じた。」
瀧井孝作「人物がゴチャゴチャして、描写も何もない、わけのわからんものと私は見た。
これよりもまだ、前回の候補作「浄徳寺ツアー」には、
団体旅行の猥雑味が描いてあったと思った。」
中村光夫「僕としては、本来なら授賞作なし、だがもし強いて選ぶなら中上氏、
中村光夫「僕としては、本来なら授賞作なし、だがもし強いて選ぶなら中上氏、
という考えで出席しました。
氏はいくども候補にあがり、充分力倆をみとめられた新人ですが、
氏はいくども候補にあがり、充分力倆をみとめられた新人ですが、
今度の「岬」はそれらにくらべても出来のよい作品とは云えません。
独自な小説世界を持つのは、ひとつの才能といえるので、
独自な小説世界を持つのは、ひとつの才能といえるので、
これに賞を与えることは、一種の冒険ではあっても、
やりがいのある冒険です。」
安岡章太郎「おそろしく読み難い。しかし粘着力のある筆致。旺盛な筆力がある。
安岡章太郎「おそろしく読み難い。しかし粘着力のある筆致。旺盛な筆力がある。
ただし、最後の場面は文体が浮き上り、全体を安っぽくしている。」
19: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:00:13.65 ID:Zln0Zp+O0.net
村上龍『限りなく透明に近いブルー』

吉行淳之介「この数年のこの賞の候補作の中で、その資質は群を抜いており、

吉行淳之介「この数年のこの賞の候補作の中で、その資質は群を抜いており、
一方作品が中途半端な評価しかできないので、困った。
どこを切っても同じ味がする上にやたら長く、
どこを切っても同じ味がする上にやたら長く、
半ばごろの「自分の中の都市」という理窟のような部分に行き当って、
一たん読むのをやめた。
作品の退屈さには目をつむって、抜群の資質に票を投じた。
この人の今後のマスコミとのかかわり合いを考えると不安になって、
この人の今後のマスコミとのかかわり合いを考えると不安になって、
「因果なことに才能がある」とおもうが、
そこをなんとか切り抜けてもらいたい。」
丹羽文雄「芥川賞の銓衡委員をつとめるようになって三十七回目になるが、
丹羽文雄「芥川賞の銓衡委員をつとめるようになって三十七回目になるが、
これほどとらまえどころのない小説にめぐりあったことはなかった。
それでいてこの小説の魅力を強烈に感じた。
若々しくて、さばさばとしていて、やさしくて、いくらかもろい感じのするのも、
若々しくて、さばさばとしていて、やさしくて、いくらかもろい感じのするのも、
この作者生得の抒情性のせいであろう。
二十代の若さでなければ書けない小説である。」
中村光夫「他の六篇とはっきり異質の作品。
中村光夫「他の六篇とはっきり異質の作品。
技巧的な出来栄えから見れば、他の候補作の大部分に劣る
といってもよいのですが、その底に、
本人にも手に負えぬ才能の汎濫が感じられ、
この卑陋な素材の小説に、ほとんど爽かな読後感をあたえます。
無意識の独創は新人の魅力であり、
無意識の独創は新人の魅力であり、
それに脱帽するのが選者の礼儀でしょう。」
20: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:00:50.07 ID:Zln0Zp+O0.net
井上靖「私は(引用者中略)推した。
芥川賞の銓衡に於て、作者の資質というものを感じさせられる
久々の作品だったと思う。
所々に顔を出す幼さも、古さも、甘さも、この作品ではよく働いていて、
所々に顔を出す幼さも、古さも、甘さも、この作品ではよく働いていて、
全篇をうっすらと哀しみのようなものが流れているのもいい。
題材が題材だけに、当然肯定もあり、否定もあると思う。
肯定と否定とを計りにかけ、
肯定と否定とを計りにかけ、
その上でどちらかに決めさせられるような作品である。
そういう点も、この作品の持つよさとすべきであろう。」
永井龍男「これを迎えるジャーナリズムの過熱状態が果して
永井龍男「これを迎えるジャーナリズムの過熱状態が果して
この新人の成長にプラスするか否か、(引用者中略)
群像新人賞というふさわしい賞をすでに得ている、
次作を待って賞をおくっても決して遅くはないと思った。
まさに老婆心というところであろう。」
瀧井孝作「アメリカ軍の基地に近い酒場の女たち、
まさに老婆心というところであろう。」
瀧井孝作「アメリカ軍の基地に近い酒場の女たち、
麻薬常習の仲間たちのたわいのない、水の泡のような日常を描いたもの、
と私はみた。
この若い人の野放図の奔放な才気な一応認めるが……。
この若い人の野放図の奔放な才気な一応認めるが……。
私はこの人の尚洗練された第二作第三作をまちたかった。」
安岡章太郎「印象にのこった。候補に上る以前から、
安岡章太郎「印象にのこった。候補に上る以前から、
それこそ「はしゃぎ過ぎ」の感があるほど話題になった作品であるが、
内容に較べて二百枚という長さは退屈である。
何が言いたいのかサッパリわからない。
ただ、この作品には繊細で延びのある感受性があり、
ただ、この作品には繊細で延びのある感受性があり、
それが風景描写などに生きている。
私はこの作品に賞は出さない方がいいと思ったが、
積極的に反対するだけの情熱もなかった。」
21: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:00:50.26 ID:e5qHorPuM.net
『陰気な楽しみ』『悪い仲間』に対する坂口安吾の
「独特の観察とチミツな文章でもっている作風であるから、
「独特の観察とチミツな文章でもっている作風であるから、
流行作家には不適格かも知れないが、
それだけに熱心な愛読者には本がすりきれるほど
読まれるような人だ。」
って評が好き
って評が好き
22: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:01:04.64 ID:bTndrq7Z0.net
ラノベ読んだら発狂するのか
23: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:02:38.04 ID:Zln0Zp+O0.net
綿矢りさ『蹴りたい背中』

宮本輝「「インストール」と今回の「蹴りたい背中」に至る短期間に、

宮本輝「「インストール」と今回の「蹴りたい背中」に至る短期間に、
綿矢さんの世界は目をみはるほどに拡がっている。
ディティールが拡がったという言い方が正しいかもしれない。
ディティールが拡がったという言い方が正しいかもしれない。
確かに十九歳の世界はまだまだ狭い。
だが私は(引用者中略)「蹴りたい背中」に伸びゆく力を感じた。
だが私は(引用者中略)「蹴りたい背中」に伸びゆく力を感じた。
伸びゆく年代であろうとなかろうと才能がなければ伸びてはいかない。」
古井由吉「「蹴りたい背中」とは乱暴な表題である。
古井由吉「「蹴りたい背中」とは乱暴な表題である。
ところが読み終えてみれば、快哉をとなえたくなるほど、的中している。
最後に人を避けてベランダに横になり背を向けた男が振り返って、
最後に人を避けてベランダに横になり背を向けた男が振り返って、
蹴りたい「私」の、足の指の、小さな爪を、少し見ている。
何かがきわまりかけて、きわまらない。
そんな戦慄を読後に伝える。」
黒井千次「読み終った時この風変りな表題に深く納得した。
そんな戦慄を読後に伝える。」
黒井千次「読み終った時この風変りな表題に深く納得した。
新人の作でこれほど内容と題名の美事に結びつく例は稀だろう。
背中を蹴るという行為の中には、
背中を蹴るという行為の中には、
セッ○ス以前であると同時にセッ○ス以後をも予感させる
広がりが隠れている。
この感性にはどこか関西風の生理がひそんでいそうな気がする。」
村上龍「破綻のない作品で、強く推すというよりも、
村上龍「破綻のない作品で、強く推すというよりも、
受賞に反対する理由がないという感じだった。」
24: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:03:10.30 ID:Zln0Zp+O0.net
池澤夏樹「高校における異物排除のメカニズムを正確に書く伎倆に感心した。
その先で、(引用者中略)人と人の仲を書く。
すなわち小説の王道ではないか。」
山田詠美「もどかしい気持、というのを言葉にするのは難しい。
山田詠美「もどかしい気持、というのを言葉にするのは難しい。
その難しいことに作品全体を使ってトライしているような健気さに心惹かれた。
その健気さに安易な好感度のつけ入る隙がないからだ。」
河野多惠子「彼等(引用者注:〈私〉と〈にな川〉)はまさしく高校一年生である実感に
その健気さに安易な好感度のつけ入る隙がないからだ。」
河野多惠子「彼等(引用者注:〈私〉と〈にな川〉)はまさしく高校一年生である実感に
満ち、同時にそれを越えて生活というものを実感させる。
非常に若い(引用者注:受賞した二人の)両作者が、
非常に若い(引用者注:受賞した二人の)両作者が、
非常に若い人物を描きながら若さの衒いや顕示がなく、視力は勁い。」
三浦哲郎「この人の文章は書き出しから素直に頭に入ってこなかった。
たとえば『葉緑体? オオカナダモ? ハッ。っていうこのスタンス。』
三浦哲郎「この人の文章は書き出しから素直に頭に入ってこなかった。
たとえば『葉緑体? オオカナダモ? ハッ。っていうこのスタンス。』
という不可解な文章。私には幼さばかりが目につく作品であった。」
高樹のぶ子「『蹴りたい背中』が一番良く『蛇にピアス』が二番だった。
高樹のぶ子「『蹴りたい背中』が一番良く『蛇にピアス』が二番だった。
醒めた認識が随所にあるのは、
作者の目が高校生活という狭い範囲を捉えながらも
決して幼くはないことを示していて信用が置ける。
作者は作者の周辺に流行しているだろうコミック的観念遊びに
作者は作者の周辺に流行しているだろうコミック的観念遊びに
足をとられず、
小説のカタチで新しさを主張する愚にも陥らず、
あくまで人間と人間関係を描こうとしている。」
25: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:05:31.79 ID:tR8/RJx6a.net
田中に対する石原慎太郎はよ
26: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:08:38.82 ID:Zln0Zp+O0.net
>>25
田中慎弥『共食い』

石原慎太郎「戦後間もなく場末の盛り場で流行った「お化け屋敷」のショーのように
田中慎弥『共食い』

石原慎太郎「戦後間もなく場末の盛り場で流行った「お化け屋敷」のショーのように
次から次安手でえげつない出し物が続く作品で、
読み物としては一番読みやすかったが。
田中氏の資質は長編にまとめた方が重みがますと思われる。」
27: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:09:29.37 ID:tR8/RJx6a.net
もっとぼろくそに貶してなかったっけ?
29: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:18:51.34 ID:EUJXBuQz0.net
普段の石原からすればこれは絶賛だな
30: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:19:29.24 ID:B9+g/tUma.net
平野は?
31: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:19:33.67 ID:puSQ99Wy0.net
いや絶賛する時の石原はもっと褒めるから
34: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:23:52.90 ID:Zln0Zp+O0.net
>>30
平野啓一郎『日蝕』

河野多惠子「私はこの作品の新仮名遣に、
平野啓一郎『日蝕』

河野多惠子「私はこの作品の新仮名遣に、
作者が語っている理由ある選択以上の取得、つまり効果を感じる。
「日蝕」の創作動機は、奇跡との遭遇願望である。
「日蝕」の創作動機は、奇跡との遭遇願望である。
とはいえ、主人公の学僧は、作者の分身ではない。
学僧は、海苔を干す時に使われる小簾のようなもので、
干し上がれば用のないものである。
主人公の学僧を無性格な人物たらしめてあるのは、
主人公の学僧を無性格な人物たらしめてあるのは、
大きな取得になっている。
私はこの作品に作者の志の高さを見たので、
それに賭けるつもりで推した。」
古井由吉「なぜこのような文章を、二十歳と少々の青年が書くに至ったか、
古井由吉「なぜこのような文章を、二十歳と少々の青年が書くに至ったか、
また書き得たか、その訝りにたいする解答を、
読者はしばらく留保したほうがよいと思われる。
無論、擬体である。仮構である。小説である。
無論、擬体である。仮構である。小説である。
ただ、西洋伝来の近代小説の、源のひとつの、その境まで振り戻して、
新たに始めるという冒険である。
私などは感嘆以前に、投げあげた試みがさほどの揺らぎもなく、
私などは感嘆以前に、投げあげた試みがさほどの揺らぎもなく、
伸びやかな抛物線を描くのを、唖然として眺めた。」
日野啓三「近代小説の正統(ルビ:オーソドックス)の道に
日野啓三「近代小説の正統(ルビ:オーソドックス)の道に
自覚的に立とうとする作品として、(引用者中略)推す。
気分的でしかない非現実感や自閉や破壊衝動や終末待望の
単調な表白に、私は飽き始めている。
意識的な書き言葉の格調を、最後まで担い通したのは見事である。
矛盾した記述は矛盾のままに、
意識的な書き言葉の格調を、最後まで担い通したのは見事である。
矛盾した記述は矛盾のままに、
「両性具有者(ルビ:アンドロギュノス)は私自身であったのかも知れない」
という主人公の魂の統合体験を、私は共感することができた。」
32: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:20:08.87 ID:NjPLppob0.net
スティル・ライフお願い
37: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:30:32.87 ID:Zln0Zp+O0.net
>>32
池澤夏樹『スティル・ライフ』

開高健「冒頭にたいそう突ッ張った文体の宣言文があり、
池澤夏樹『スティル・ライフ』

開高健「冒頭にたいそう突ッ張った文体の宣言文があり、
つづく本文に水と油みたいな効果をあたえている。
この部分は私にはまったく余計なものと感じられる。
しかし、しいてそれに目をつむるなら久しぶりに作文ではなくて
しかし、しいてそれに目をつむるなら久しぶりに作文ではなくて
作品を読まされる愉しさがある。
一種、童話に近い味である。
一種、童話に近い味である。
そううまくいきますかな、という疑問が終始つきまとうけれど、
文体の背後にある詩人肌がストーリーを救っている。」
黒井千次「不思議に静かな読後感を与えられた。
ともすれば観念的な饒舌に陥りがちなこの種の作品にあって、
黒井千次「不思議に静かな読後感を与えられた。
ともすれば観念的な饒舌に陥りがちなこの種の作品にあって、
公金横領とか時効とかいう事象が、
現実をめぐるゲームの力学のように扱われているのも面白いと思った。
(引用者注:「長男の出家」と共に)現代と向き合う姿勢で生み出されて
(引用者注:「長男の出家」と共に)現代と向き合う姿勢で生み出されて
来たことに共感を覚えた。二作受賞は当然と考えられた。」
古井由吉「ひとつの透明な歌として私は読んでその純度に満足させられたが、
古井由吉「ひとつの透明な歌として私は読んでその純度に満足させられたが、
しかし宇宙からの無限の目は、救いとなる前にまず、
往来を歩くことすら困難にさせるものなのではないか。
また、被害者が存在するかぎり、人は見られている、
また、被害者が存在するかぎり、人は見られている、
つまり透明人間のごとくにはなり得ないのではないか。」
大庭みな子「雪や「鳩」の場面が心に残り、洒脱な仕上りになっている。
大庭みな子「雪や「鳩」の場面が心に残り、洒脱な仕上りになっている。
最初の短い章は、抽象性の強い作風であるだけに、
損をしているのではないかと思えた。」
35: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:25:48.55 ID:Zln0Zp+O0.net
石原慎太郎「いろいろ基本的な疑義を感じぬ訳にはいかない。
この衒学趣味といい、たいそうな擬古文といい、
この衒学趣味といい、たいそうな擬古文といい、
果たしてこうした手法を用いなければ
現代文学は蘇生し得ないのだろうか。私は決してそうは思わない。
浅薄なコマーシャリズムがこの作者を三島由紀夫の再来
浅薄なコマーシャリズムがこの作者を三島由紀夫の再来
などと呼ばわるのは止めておいた方がいい。
三島氏がこの作者と同じ年齢で書いた「仮面の告白」
三島氏がこの作者と同じ年齢で書いた「仮面の告白」
の冒頭の数行からしての、あの強烈な官能的予感は
この作品が決して備えぬものでしかない。」
宮本輝「小説の後半からの破綻、手の込みすぎた文章。全体に漂う妙な驕り。
宮本輝「小説の後半からの破綻、手の込みすぎた文章。全体に漂う妙な驕り。
それらはみな鼻持ちならないのだが、
ことごとくが既製品の範疇から出て手脚を延ばしている。
この若い作者が内に秘めているものは、出たとこ勝負の腕力ではない。
将来に大きな楽しみをかかえた強くて豊かな膂力であって、
将来に大きな楽しみをかかえた強くて豊かな膂力であって、
私にも幾つかの不満はありながらも芥川賞に推さざるを得なかった。」
田久保英夫「文章の様式に、積極果敢な試みを感じた。
この十五世紀のフランスの修道士を中心に、
田久保英夫「文章の様式に、積極果敢な試みを感じた。
この十五世紀のフランスの修道士を中心に、
異端審問や錬金術を描いた作品には妙に適合した力を持っている。
男女の肉のすべてを象徴的に結集した存在を火刑にする光景で、
男女の肉のすべてを象徴的に結集した存在を火刑にする光景で、
一瞬、至高の極を開示して見せる。まことに若々しい野心と膂力と言えよう。
いくつか懸念もあるが、今回この作品がず抜けていた。」
いくつか懸念もあるが、今回この作品がず抜けていた。」
36: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:27:20.52 ID:Zln0Zp+O0.net
三浦哲郎「この作者の該博ぶりと明晰な文章を駆使する力量は、確かに瞠目に値する。
それを充分認めた上でいうのだが、
それを充分認めた上でいうのだが、
作者は、ここにちりばめてあるペダントリーとも思われかねない
用語の力を頼ることなしに、それらを強引に押しつけるのではなしに、
自分の意図するところを読む者へそっくり正確に伝えられるような
自分の意図するところを読む者へそっくり正確に伝えられるような
独自の表現方法を考慮するべきではなかったろうか。」
黒井千次「天井の高い建造物に踏み入ったかのような印象を受けた。
黒井千次「天井の高い建造物に踏み入ったかのような印象を受けた。
作品の構えの大きさと思考の奥行きとが生んだ印象であったろう。
精神と物質との関係が激しく揺らいでいる今日、
精神と物質との関係が激しく揺らいでいる今日、
それを専ら精神の側から描こうとする若い人の小説は多いのだが、
その主題を正面に据えたロマンの形で書かれる作品は稀である。
ここに現出した世界の問題が現代に深く関るものであることに共感を覚える。」
池澤夏樹「知的に構築された小説としておもしろかった。
ここに現出した世界の問題が現代に深く関るものであることに共感を覚える。」
池澤夏樹「知的に構築された小説としておもしろかった。
もっとスマートな書きかたがあっただろうというのは若くない者の愚痴で、
あちらこちら荒削りなのは一種の腕力の証明として好ましい。
こういう座興的な議論の土台となる小説は、もちろん拍手と授賞に値する。」
こういう座興的な議論の土台となる小説は、もちろん拍手と授賞に値する。」
38: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:32:19.23 ID:Zln0Zp+O0.net
田久保英夫「(引用者注:「長男の出家」と)共に捨てがたい思いでいた。
魅力は、星のような自分の外の世界と、
魅力は、星のような自分の外の世界と、
内部の世界が呼応する詩的な感覚を保ちながら、
染色工場の作業や、大きな屋敷の中で株の売買をする現実的な生活も、
かなり生なましく描きえていることだ。
欠点も、読みおえると許せる気持がしてしまうのは、不思議な資質だ。」
日野啓三「よかった。ここに書かれてあることをそのまま読んでゆき、
欠点も、読みおえると許せる気持がしてしまうのは、不思議な資質だ。」
日野啓三「よかった。ここに書かれてあることをそのまま読んでゆき、
終りまでたどりつけば、
埃っぽい気分がずいぶんとさっぱりしているのに気付く。
金の話となると生ぐさくなくては困る場合が多いが、
金の話となると生ぐさくなくては困る場合が多いが、
ここでは雨崎への小旅行と同じ色調で、
両方とも星の話でも聞かされているようだ。
そして、この作品ではそのことが肝心なところである。」
三浦哲郎「印象深かった。 まず文章がいいと思った。
三浦哲郎「印象深かった。 まず文章がいいと思った。
いかにも静物を描くのにふさわしい、硬質で、
いくらかひんやりした手ざわりの、それでいて適度な柔軟性も持っている。
雨崎の海辺で雪に降られる場面や神社の境内で鳩を見る場面の、
雨崎の海辺で雪に降られる場面や神社の境内で鳩を見る場面の、
新鮮な美しさと説得力には感心させられた。
冒頭の前説を切り捨てる勇気が持てさえしたら、
冒頭の前説を切り捨てる勇気が持てさえしたら、
今後が楽しみな新作家だと思う。」
39: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:33:21.44 ID:Zln0Zp+O0.net
河野多惠子「個性的に新しい感覚のよさ、乾いた抒情の味は、なかなかのものだった。
作者が育んできた独自の思想(ルビ:かんがえ)と両者が溶け合っていて、
水上勉「とにかく面白かった。
イヤな男たちといってしまえばすむこのような人を喰った世界を描いて
作者が育んできた独自の思想(ルビ:かんがえ)と両者が溶け合っていて、
この作品および作者の得難い強みはそこにあり、期待をそそる。
根には、今日の〈偽の現実〉との作者の対決がある。
が、時折、理窟や説明に縋る。
根には、今日の〈偽の現実〉との作者の対決がある。
が、時折、理窟や説明に縋る。
この作者ならばそれを克服するだけのあと一段の成長を
程なく遂げそうなので、私は少し先での受賞を理想と考え、
且つ早目の受賞に反対する気持には到らなかった。」
水上勉「とにかく面白かった。
イヤな男たちといってしまえばすむこのような人を喰った世界を描いて
まことにすがすがしいのだった。
今生の世をこんなふうに切りとってみせる才覚はなみのものではない。
今生の世をこんなふうに切りとってみせる才覚はなみのものではない。
授賞ときまれば異存なしと心をきめて出かけたところ、
予想どおり満点に近かった。」
40: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 23:35:04.39 ID:PfSQLY8/0.net
ワナビの約八割が文法厨だけど文法って対して評価に関係無いんだよね
8: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/26(木) 22:45:07.31 ID:CB4l0OeL0.net
みんな結構厳しいのな
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コメント
コメント一覧 (6)
いつの時代も「最近の若者は…」て言われるのに似てる気がしてくる
やっぱ誰しも自分が基準なんだよな
あと、本当に三島好きなんだな
中国嫌いは分かるがあまりに酷かった
現在なにをしておられるのか
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いつもコメントありがとうございます更新の励み、参考にさせていただいています